2010年9月28日火曜日

急速充電の話

東京電力の技術開発研究所を訪問して、東電のサービス地域での電力事情と電気自動車の急速充電の話を伺いました。前回の電力事情の話に続き、今回は急速充電に関して報告します。以下は質疑応答を質問とその回答という形で編集してあります。

お話は電動推進グループの主任研究員の丸田理氏と同じく国際関係担当シニアマネージャーの青木浩行氏です。(写真はクリックで拡大)


丸田氏(左)と青木氏(右)

東京電力は、急速充電コンソーシアムのCHAdeMO協会に参加しています。この協会の幹事会員は東電の他、トヨタ、日産、三菱自動車、富士重工です。

Q:CHAdeMOを設立する際に東電が中心的役割を果たしたのか。
A:急速充電器と電気自動車のインターフェイスを設定した。具体的には、プロトコルとコネクタを指定した。実装は自動車会社が行った。インターフェイスの設定だけなので、内容は各社がそれぞれ実装できる。

Q:CHAdeMOのメンバーはどのような会社か。
A:自動車会社の他、電源、バッテリ、他の電力会社など、200社を超えている。
http://chademo.com/soshiki/kaiinnichiran.pdf

Q:急速充電には特殊なバッテリが必要なのか。ウェブサイトにあったECUとは何か。
A:バッテリは走行中ずっとモニターされている。これを電気自動車で行うのがECUだ。ガソリン エンジンの自動車でもさまざまな電子制御にECUは広く使われている。ECUは小型のコンピュータと考えて差し支えない。ECUは,バッテリの性能・特性に応じて最適に管理する。例えば、バッテリの温度が上がりすぎた時は、流れる電流を抑えて温度を調節する。

Q:CHAdeMOは「茶でも」というのにも引っ掛けていると聞いているが、30分でも長いと感じる人がいると思うが。
A:自動車会社は30分で「満タン」にできると宣伝している。しかし考えてみれば、ガス車と同様、普通バッテリが完全に空になるまで待って充電するのは稀だ。そのため、通常の充電は10分程度で済むはずだ。急いでいる場合、5分もあれば更に40km程度は移動できるようになる。
Q:急速充電対応の車は常に急速充電する必要があるのか。
A:普通の電気自動車は通常充電(100-200V)と急速充電(300-350V)の接続口があるので、どちらでも選択できる。

Q:急速充電するとバッテリの寿命が短くならないか。
A:ECUで常にバッテリの状態をモニターしているので、バッテリに問題が生じそうになれば適切な処置を講じる。例えば、温度が高くなりすぎると電流を下げて調節する。現在までの実験では、急速充電はバッテリの寿命に関係ないという結果が出ている。

Q:日本全国に数多くの充電ステーションがあるが、あれは実証実験のためか。
A:現在200箇所ほどあるが、実用として使用されている。また政府の助成金も出る。

Q:米国での電気自動車の実現についてはどう見ているか。
A:米国の標準電圧の120Vで10時間充電すれば110kmから120km走ることができる。それより速く充電したければ、急速充電のインフラを建設する必要がある。インフラを戦略的に設置すれば、新たな電力需要による電力網への影響はわずかだ。

Q:電気自動車は今後どう発展していくか。
A:日本に続き、ヨーロッパの自動車会社も電気自動車の開発を計画している。米国ではエネルギー省からの助成金でオレゴン州ポートランド市を始め5箇所で電気自動車を展開する予定だ。こういうことで、電気自動車の市場に火が点くかもしれない。

日本では電気自動車が熱い。電気自動車の時代はもうすぐだろうか。

東京電力の電力事情


東京電力の技術開発研究所を訪問して、東電のサービス地域での電力事情と電気自動車の急速充電の話を伺いました。今回は電力事情の話を報告して、次回では急速充電に関して報告します。以下は質疑応答を質問とその回答という形で編集してあります。

Q:一般に、東電のサービス地域で電力不足はあるか。
A:原発の停止時とか新潟地震などの特殊な場合を除き、電力不足はない。

Q:外国からの石油に大量に依存するなど、日本のエネルギー事情は不安定なように見えるが。
A:東電の地域に限らず、日本のエネルギー源は石炭、石油、原子力と十分確保されており、石油の輸入が困難となっても昭和の時代のような問題はない。日本の場合、水力発電を行える場所が限られており、新規発電所の建設はない。あるとすれば、夜間、電力料金の安いときに水を汲み上げておき、電力需要が大きくなる昼間に水力発電で発電する揚水型だけ。

Q:電力需要は、正確に予想できるか。
A:大体前日には1%の誤差で予想できる。

Q:電力のピーク時は何時頃か。
A:年間最大は,真夏の午後2時前後に発生する。冬と春秋は,夕方。この傾向は以前から同じ。

Q:日本ではスマートグリッドはどのように利用されるか。太陽光発電と電気自動車というイメージが強いが。また、スマートメータはどうか。
A:スマートグリッドは太陽光発電をスムーズに配電網に取り入れるのに利用する。電気自動車に関してはあまりメリットがないかと思う。日本の場合、かなり前から3つの時間帯ごとに異なった料金メニューを選択できるようにしており、所謂スマートメータがなくても欧米で言われているスマートメータの一部機能は実装している。ただし、スマートメータが実装されると、自動検針などが可能になる。

Q:電気自動車が実用化されると、充電のために新たな電力需要が発生するのではないか。
A:我々の試算では、10年後に100万から200万台が使用されたとしても、必要とされる電力は総電力消費量のコンマ以下のオーダーで、問題とならない。

QDR(需要・供給バランス)はどうか。
ADRが有効なのは、電力が根本的に不足する状況下。電力不足がない日本ではあまり意味がない。一般的に、エアコンその他の電気製品もエネルギー効率を非常に考慮して作られている。

Q:それでは、東電側から見ると、日本のスマートグリッドは太陽光発電を取り込むためだけのものか。
A:(唯一目的ではないが)それが最優先課題だ。

この取材で分ったことは、
1.     電力供給は、インフラがしっかりしていることもあり非常に安定している。(ちなみに、東電の地域では年間の停電時間は3分程度だが、米国ではカリフォルニアを含む西部で約120分、NYCを含む地域では210分だ。)そのため、安定性を増加させるというスマートグリッドの役割はあまり意味を持たない。
2.     スマートメータを設置する前から、日本ではTOUを実施している(スマートメータ設置後も筆者の住む北カリフォルニアの地域では、未だにTOUが適用されていない)。
3.     日本では電気自動車が実用化されても、電力網に与える影響は微々たるものだ。

以上を総合すると、日本でのスマートグリッドやスマートメータの意義は小さいように思えますが、本当にそうでしょうか。時間帯によって異なる料金がセットされているので、スマートメータ導入でも課金は変化しないでしょう。しかし、スマートグリッドやスマートメータは電力会社だけのものではなく、消費者も巻き込んだ大きな流れだと考えるのであれば、スマートグリッドに対する認識も変化するのではないでしょうか。

まず、各家庭と電力会社がネットワークで結ばれることで電力消費データが共有され、消費者が電力をより賢く使用する一助となると予想されます。更にそのデータを信頼できる第三者に供給することで、データの表示をより分かりやすくしたり、ダッシュボードでデータを提供するなど、新たなサービスの提供が可能となることも考えられます。当初のアプリケーションは、消費電力の表示と電力網のモニターという、電力会社主体のものとなるのはやむを得ないことだと思います。しかし、現在想像もできないようなアプリケーションやサービスが将来消費者や第三者から提案・開発されることは想像に難くありません。インターネットの進化を振り返ると、これは確信できます。こうした点で、スマートグリッドを再生エネルギー源の取り込みに限るのではなく、もう少し広く長い目で見てはどうでしょうか。